ようやく舞台は整った、“コーヒーの価値を伝える”のはこれから
コーヒー先進国と言われているノルウェーのオスロにルーツをもつ富ヶ谷のFUGLEN COFFEE ROASTERSにはオスロと同じく、美しい北欧インテリアが配置されている。洗練された大人の空間という印象もあるが、置かれたインテリアはただ美しいだけでなく、長く愛されてきたことで醸し出される“どこか懐かしい雰囲気”も兼ね備えていて、それがFUGLENならではの居心地の良さを作りだしている。
そのFUGLEN TOKYOで代表をつとめるのが小島賢治氏だ。本国ではやっていない焙煎を小島氏が始めたのは2014年。FUGLEN COFFEE ROASTERSは先日3周年を迎えた。小島氏がコーヒーに興味をもったきっかけを大きく遡ってみると、実は小学生の時、母が朝食時に作ってくれたインスタントコーヒーだったという。母の代わりに小島氏がコーヒーを作るようになり、褒めてもらえたことが嬉しくて、“コーヒー作り”に興味をもったのかもしれない、と語る。コーヒーに人生をかけるきっかけとなった一杯は、コーヒーの勉強のために滞在していたオスロの帰り、Tim Wendelboe(ティム・ウェンデルボー)で購入したパナマ・ゲイシャだった。東京で淹れたそのコーヒーは、深いフルーツジュースのような味わい。コーヒーが本当に好きになったのはその時で、自ら豆を選び、焙煎をする今でも、少なからずその時の味が影響を与えている。そんな小島氏にとって、今のコーヒー業界はどのように見えているのだろうか。
実際、お店に来られる方の2割ぐらいしか、コーヒーについての深い情報は伝わっていないと思います。ただ、それには時間がかかるし、丁寧に育てるものなので、私自身はこれまで「伝わっているのか」ということは考えてきませんでした。それよりも、自分達はどんなコーヒーを作りたいのか、しっかり準備する期間だと思っていたんです。
以前、オスロでバリスタの世界チャンピオンを輩出したJava(ヤヴァ)に行ったとき、犬を連れた年配の女性が横に座ったので話をしていたら、彼女はJavaに世界チャンピオンがいることを知らずに、“ただ美味しい”という理由だけで店を訪れていました。そのとき、最初から色々と伝えるのではなく、まずは美味しいコーヒーを出して“飲むこと”を浸透させる、それが優先だと思ったんです。
しかし、ここ数年で、東京にはコーヒー店がたくさんできて、その味わいが分かる人、価値を感じ取れる人も増えてきました。だからこれからは、今まで通り高品質のコーヒーを提供しながら、その価値をさらに高める“バーチャルバリュー(情報空間の価値)”が重要になってくると考えています。農園の様子や生産者の話などを私達が伝えることで、お客様がコーヒーのバックグラウンドをリアルにイメージし、その価値を感じやすくなると考えています。
コーヒーの価値を上げることができれば、そのお金は生産者にお返しできるだけでなく、情報収集をしにいくための旅費にもなります。さらに、一緒に働く社員やバリスタにも還元できます。これから大事なことのひとつは、コーヒーに携わる人に家庭ができたり子供が生まれても続けていけるような環境を作ることです。コーヒーの価値を上げる“情報”は、そういったサステナブルな環境を作るためにも重要だと感じています。
店舗情報
FUGLEN COFFEE ROASTERS 小島賢治のセミナーイベント
Interview & Text: Ayako Oi (CafeSnap)