コーヒーと聞いて1種類しか思い浮かばない、それが悔しい
「打ち合わせやデート、何気ない時間を少し豊かにする、人に寄り添うコーヒーを提供したい」という想いが込められた熊本のAND COFFEE ROASTERS。オーナーの山根洋輔氏は19歳の時に留学したニューヨークでコーヒーに出会った。ルームメイトの一人がコーヒーを飲まないとエンジンのかからないタイプで、ある日、彼が連れて行ってくれたカフェで飲んだグアテマラが驚きの味わいだったのだ。
帰国したのは2007年。当時、日本には山根氏がニューヨークで見ていた憧れを抱くようなコーヒー店はほぼなかった。店をオープンするためにレストランなどで働いた後、2013年にまだカフェ自体が少ない熊本にAND COFFEE ROASTERSをオープン。現在は常時、約6種類のシングルオリジンコーヒーを提供している。そんな山根氏がいま、伝えたいこととは。
「なにかコーヒーを思い浮かべてみて」と言ったときに、ほとんどの人の頭には“1種類のコーヒー”しか浮かばない、それが悔しいんです。例えば、ビールやワインなら、ブランドや銘柄、産地、いくつもの種類が頭に思い浮かびますよね。コーヒーも同じなのに、それが伝わっていない。一種類のコーヒーのイメージだけで「コーヒーが嫌い」という人がいるのは悲しいことです。それは、例えるなら「音楽が嫌い」と言っているのと同じ。ヒップホップが苦手とか、クラシックが苦手、というのは人それぞれあると思いますが、音楽全般が嫌いな人はほぼいないはずです。コーヒーも本来はそういう存在です。ワインを作るブドウの味が産地によって違うように、コーヒーもそれぞれ違う。その違いを引き出した焙煎や抽出をしたコーヒーをもっと多くの人に知ってほしいと思っています。
それぞれの豆が持つ“個性ともいえる味”を引き出すために重要なのが焙煎。AND COFFEE ROASTERSでは、焙煎の基準となるプロファイルを私が決めた後、一定の技術がある複数の焙煎士が豆を焼くようにしています。焙煎は失敗の数が多いだけ美味しくなる。基準のプロファイルから、どのタイミングでどれくらい温度が変わった時、どんな風に美味しくなったのか、逆に悪くなったのか、検証し続けていくことで、豆の魅力を最大限に引き出したコーヒーを作ることができます。
実は、いまはネットにはなんでも載っていて、産地ごとの豆にあわせた焙煎のプロファイルデータも入手できます。ただ、それを鵜呑みにすることはできないんです。なぜなら、コーヒーを淹れる場所によって、水が違い、環境も異なるから。日本国内でさえ、熊本で焙煎した豆をその場で淹れる場合と東京で淹れる場合では味が変わります。焙煎士は豆を焼きながら、より美味しくなるようにカスタマイズしていくのが腕の見せ所。お店でだすコーヒーを一番美味しく焙煎できるのは、その店の焙煎士だけなのです。
店舗情報
AND COFFEE ROASTERS 山根洋輔のセミナーイベント
Interview & Text: Ayako Oi (CafeSnap)